超大作の特注念珠 その3
この記事では、「超大作の特注念珠」の制作工程について書いていきます。
最初から読みたいというかたは、こちらもご覧ください。
試行錯誤の始まり
イラタカ玉ができない
まずは、イラタカ玉を作った事が無いことです。
北海道では、修験道の歴史もなく、かなり特殊な部類に入ります。
長らくお待たせした納期の前半戦は、ほぼイラタカ玉を作る事に苦労していたといってもいいでしょう。
たくさん作っているところでは、どうやって切り出しているのかわかりませんが、おそらく、丸玉と同様に、イラタカ用の専用の刃があるのだと想像しています。
特注でそのような刃を作る事も考えられますが、うちの様な零細では現実的ではありません。そもそも、刃を作るということは、一つの刃で、規定のサイズ1種類しか作る事ができません。全体とのバランスとれない、大きさが好みではない、その他別の問題が生じた場合など、やり直しが利きません。
それに、特注の刃をつくっても、今後、同じ大きさを量産することは考えずらいということがあります。
NC旋盤
旋盤とは、木材のカタマリを回転させてそこに刃を当てて形を切り出す道具です。当てる刃の動かし方で、お椀やコケシ、マトリョーシカのようなか形を作れる道具です。
それの「NC」というのは、「Numerically Control」のことで、コンピュータによる数値制御ができるものです。
そこで、試行錯誤の結果行き着いたのはNC旋盤で切り出す方法でした。
NC旋盤は、機械本体は一昨年導入したわけですが、まだ、調整が済んでおらず、1年以上かけて、トラブルを解消しながら、セッティングしてきました。
今回のような特殊なご注文を1連分でも切り出せるようにしたいというのが、機械を導入した理由ですので、勉強させてもらうには大変良い機会でもありました。
ところが、ぜんぜん、うまくいかない。
こうなったら、完全手作業で、シンプルな木工ろくろを使って、自分の勘で挽いた方がまだ、近道なんじゃないかと、何度も考えました。
ちなみに、木の材料から、念珠の玉を作る事は、「挽く」という言い方をします。
NC旋盤の改善よりも、手作業でやるとなると、均一に玉を挽けるような治具の開発が必要です。
これも、思いつくアイディは、色々と実験してみましたが、なかなかうまく来ません。
また、何週間もたってから、やっぱりNC旋盤の方が可能性があるということろに逆戻りしました。
一つは、機械のソフトウェア側のセッティングという問題がありました。
そして、材料の切り出し方にも問題があった。
木目の方向から材料の取り方が悪いと、欠けてしまって、うまく行かないことがわかりました。
少しずつ形に
試作
少しずつ形になってきたのがこれです。

タモの木が良いかと思ってチャレンジしていました。
良いときもあれば、悪いときもあって、玉の直径によっては木目の影響も大きく受ける材料でした。
全体的に、シャープさも足りません。
もう少し軸方向に詰まった方がちょうど良いバランスなのですが、角が鋭角になるほど処理が難しくなります。
事故
事故と行っては大げさかもしれませんが、この頃、ちょっとした大きな間違いをやってしまいます。
機械の初期設定とコンピュータの数値設定は、毎回神経質にやっていたのですが、疲れが出たのか、うっかり怠ってしまった日があります。
刃が回転しているチャックにあたってもなお押しつけていくような動きをしてしまい、機械からは火花を噴いて、どうにも止めることができません。
自分で設置した電源ブレーカーは、火花の向こう側。
手元に一番違いのは、コンピューターの端末でしたが、こうなったらソフト的に止めるしかありません。かなり動揺して、マウスがうまく使えませんでしたが、とにかく回転を止める操作をしました。
なんとか機械は止まったものの、刃のホルダーは曲がってしまい、使い物になりません。
それでも、怪我や火災などに発展しなかったのが、不幸中の幸いでした。
修理
もともと、自分で時間を掛けてセッティングしてきた機械です。
ぼちぼちなおして行くしかありません。
電子部品は損傷はなさそうでしたし、10分の1単位で動く精密サーボモーターもとくに問題無く動作しています。
修理は、見た目に曲がってしまった、刃のホルダーだけで済みそうでした。
しかし、かなり探してみたにもかかわらず、日本でこれに合う部品が手に入りません。
あちこちに、部品製作の問合せをしてみましたが、返事をもらえませんでした。
ものつくりの職人の業界というのは、対外的なことに弱く、面識がないところに面倒な相談をしても基本的に相手にしてもらえません。
困った挙げ句、やっぱり自分でやるというのが、最終的に僕がいつもやる方法です。手に入る部品を取り寄せ、それらを加工して、合う物を用意します。
刃先は消耗品ですので、安定して手に入る刃を次回以降も付け替えできるようなホルダーになるよう加工しました。
エゾヤマザクラの材料
エゾヤマザクラは加工しやすい材料です。
表面の仕上がりも良い。

なかなか形にならなかったイラタカ玉(写真奥の尖った玉)がようやく形になりつつあります。
しかし、ここで問題が生じます。
最初の御希望で、主玉は18~20mmという御希望ということでした。
このように、複雑に色々な玉が混じる場合、バランスを録るのが非常に難しいです。
例えば、たった1mmでも計算と誤差があれば40個も繋げば4㎝変わってします。これは無視できる誤差ではありません。
また、これ以上大きくすると、親玉は銀環を通れなくなってしまいます。
そんなことを考えながら、普通に持ち歩くにあたって妥当な大きさを考えますと、写真のようになりました。
みかん玉が極端すぎて、どら焼きのような形になっているのは、無理矢理直径を稼ごうとしたからで、イラタカの方では出来ません。
しかし、ご依頼人に確認したところ、やはり大きさを優先して欲しいとのことで、大きな玉を挽きなおしました。
専用刃ではなく、NC旋盤による玉挽きはこのようなところに最大のメリットがあります。
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次回は、いよいよ全貌が見えるところへ進みます。
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