女性の信仰

念珠を買っていただく際には必ず宗派の話をしますが、女性のほとんどは自分の実家の宗派はわかっていても、嫁ぎ先の宗派を知らないことが多いのです。20代の新婚さんならともかく、連れ添って数十年の50~60代の方でもけっこうそんなものです。
そういう方はたいていご主人が二男、三男だったりします。

そんな方が、旦那さんが先に亡くなると、急に、実家の宗派を気にするようになっているような気がします。
統計があるわけではありませんが、お客様と日ごろお話させてもらう中で実感することです。
それを考えると約6割の女性が旦那の墓に入りたくないというのも、十分うなずける数字に思えるわけです。

昔なら問答無用で、嫁ぎ先に転派ということが暗黙の了解だったのだろうけど、いつのまにか時代は変わったのかもしれません。
だから、両親の信仰がはっきりしない状態で、その子供世代に、「お宅の宗派は?」と、家督と宗旨を世襲で継ぐ前提で尋ねても、答えがないばかりでなく、混乱を招くことになります。

宗教もパーソナルの時代になりました。
一家に1台しかなかった電話が、今や一人1台以上の携帯電話に変わったように、「うちは○○宗ですよ!」という習慣すら、いつのまにか薄れてしまったようです。一見すると「若者の宗教離れ」が原因にも思えますが、僕はそうは考えていません。「子どもに面倒をかけたくない」という言葉を盾に、自分が面倒と感じた中高年世代が信仰を遠ざけてきたことです。無宗教を名乗るなら、身内が亡くなったところでお坊さんを呼ぶ必要はないのですが、「形だけでも」というお話もよく耳にします。クリスチャンでもないのにチャペルウェディングをするのと同じ感覚ということです。「昔はよかった」という感性でものを言ってしまえば、その意識の変化は悪いことで、寂しいことにも思えてしまいますが、嘆いてばかりではいられません。

一般の方は自分の亡き後、子孫がどのようにすればいいのか伝えていく必要があります。
それは、単に自分の信仰を押し付けてしまうのではなく、心の拠り所が人生において必要であることと、ゆるぎない信仰と、見かけ倒れの信仰を見極める力を伝えることが必要です。そしてお寺の場合は、自動的に関係を相続してもらえる環境に甘えず、一人一人に対して手を打っていく必要があります。ビジネスであれば、新規開拓、新規顧客の獲得というのは永遠の課題でありさまざまな方法論も確立されていますが、世襲を期待せずに宗教の伝道をしていくというのは、これからの時代とても重要であり難しい課題になると思います。

無宗教、無関心が日本人の大多数なようにも思える昨今ですが、それは、「携帯電話なんか要らないと言っていた2、30年前の多くの人と同じように、いずれは無いと毎日の生活が不便で豊かに過ごせないということに気づく時代が来るような気がしています。
携帯のように5年や10年で大きな変化はないと思いますが、もっと宗教をオープンに生活に取り入れて豊かに生きれるような世の中になればいいなと思っています。

何の興味もなかった方が、たまたま何かの縁に導かれて念珠を求めようということになったとき、単に素材や色形の話だけでなく、宗派のこと、仏教のことをお話しできるのです。興味がわき、意識が向きます。念珠はそんな力を持っています。とても可能性を感じています。
歳を重ねても、仏ホットケのスタンスの男性陣が多いことも気になります。宗教は強要されるものではありませんが、どちらを向いて歩いていいかわからないということは、実は次世代の子孫にとっては大変不安なものです。
男性と女性は、物事の受け止め方が違い、思考においても得手不得手があります。宗教信仰に関しても、その違いを尊重しながらそれぞれの得意な思考で話会うことは、とても重要なことかもしれませんね。