長岡念珠店のお知らせ(前略御住職様 第24号 その4)

前略御住職様
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長岡念珠店のお知らせ

出張出店の中止について

以前のように、お寺へ出張販売に行くことが難しくなりました。この話については、少々言い訳がましくなってしまいますが、ご理解をいただくために、丁寧に説明しておきたいと思います。

2017年のサッポロモノヴィレッジ(札幌ドーム)へ出店時
2017年のサッポロモノヴィレッジ(札幌ドーム)へ出店時

コロナ禍以前は、お寺の法要に合わせて、空きスペースに商品を並べさせてもらう機会も多くありました。また、札幌ドームのイベントなど、機会があれば、様々なところに出店することにもチャレンジしてきました。当然ながら、コロナが流行し始めたのと同時に全てキャンセルになってしまいましたが、コロナ禍二年目には、短時間だけど法要を再開するので来てくれないだろうかという相談はいくつかありました。

さて、現在は、やろうと思えば十分できる社会情勢にはなっています。しかし、基本的には出張出店はしない方向で考えています。「売らせてやるっていうのに、なにかデメリットでもあるのか?」という声は、よく聞くことです。

結論を先に申し上げると、出張販売で黒字を出すことが難しくなったこと、体力的に厳しくなってきたという二つの理由があります。

展示販売というのは、売っている場面だけを見ると、楽な仕事に見えるかもしれませんが、実は皆さんが想像するほど良い商売ではありません。たとえば、念珠を一〇〇連作るってどれくらいの手間がかかると思いますか?形にもよりますが、一日に一〇も二〇も作れるわけではありません。大手企業で、事務、経理、経営、営業などを一切やらなくてよい職人さんはそれなりの数を作るでしょうけど、私たちはそうはいきません。あらゆる雑務をこなしながら作れる数は知れています。それに一〇〇連分の材料を持つ費用は、かなりの額になってしまいます。売れるまでは一銭にもなりませんので、在庫高の問題は、うちのような小さな商売にとってはとても悩ましいです。それでも、なんとか一〇〇連作ったとしましょう。実際に会場に並べて見ると、商品数が一〇〇個とは実に少ないんです。まず並べても見栄えしませんので、買う気になってもらえません。ある女性が念珠の購入を考えたとします。一〇〇のうち、仮に男女用が半々に別れていたら女性向けであれば、残りは五〇です。さらに、ひと輪か双輪か、予算の範囲、木の玉か石の玉かと絞っていくと、ひとつ残るかどうか。それほど多く見えなかったかもしれませんが、いつも二〇〇点以上の商品を持ち歩いていました。

これらの商品を作るだけでなく、在庫の管理をしなくてはいけませんし、値札やPOPを作らなくてはいけません、箱の用意や包装の準備も必要です。持って歩けば外箱などは傷んでしまうので、入れ替えも必要になります。ですから、法要が立て込む九月、十月などは、毎日深夜、朝方までかかって準備し、数時間の仮眠をしてお寺に向かうということをやっていました。

損益ラインを真面目に計算して見ると、概ね一カ所持っていったら10万円ほど売れて、元がとれるという感じです。遠方になるとさらに経費がかかりますね。一日で10万円売るというのはなかなか難しいとは想像していただけると思いますが、なかには10万円以上買ってくださるお寺もありました。札幌ドームなどのお寺から離れたイベントだと、来場者数が四万人いてやっと20万円程度売り上げでしたから、100人程度で10万円売れてしまうということが時々あるお寺での関心の高さというのはすごいのです。だからといって、「売れるお寺だけ行きます!」というわけにはいきませんからね。仮にそうしたところで、イニシャルコストがかかりますので、回れる件数が減るならば、さらに売上が必要になります。例えば、線香やローソクはもともと小売店の利益が少ないため、念珠の販売する割合を上げていく必要もありました。

困っている事務員

出張出店をやめようという決断はいくつか理由があって、ひとつはこのように、お金の問題です。商売を存続させるためには赤字の売り方を続けることはできません。うちは他の仏具屋さんのように営業に回ったりはしませんので、こういう機会に顔を出すこと自体が営業になっていたということもありますが、コロナ禍で三年以上も売り上げが止まった間、だまってお寺の活動再開を待ちながら生き延びられるほど、業者としての資金力はありません。

そして、もうひとつの理由は自分の体力です。20代、30代の頃は、ずいぶん無茶して寝ないで働きましたし、長距離運転も平気でした。いまだに若者扱いされますが、私も平等に歳をとりました。40代も後半とはいえ、いざとなれば無理は利きますが、明らかに翌日に疲れが残っているのを感じます。この先、体力任せに忙しさをカバーするような仕事の仕方では、年々弱っていくばかりか、そのうち重大な失敗や事故になる可能性も高くなります。

完成品の念珠じゃなくても、見本を持ってきて受け付けだけでもしてくれたらいいのにというご要望も多いです。つまり、オーダー会のような感じですね。それも色々な方法を考えてみたのですが、三〇分ごとの予約制のような感じにする必要がありますし、それで時間内に売り上げを出そうと思うと、現物がないのにお客さんを買う気にさせるというのは、非常に難しいことです。現実的に商売として成り立つ方法が見つけられませんでした。

カタログやチラシ販売みたいな方法も考えました。しかし、近頃の非常に不安定な在庫と価格変動の問題などを考えると、数ヶ月毎にカタログを入れ替えるような作業も必要になります。次の項に書きますが、これについては、オンラインショップがその現代版と考えていただけると良いと思います。

申し訳ありませんが、現時点では出張販売は困難であると判断しています。これまでご支援くださった皆様に心から感謝しており、今後も皆様の期待に応えられるよう努力を続けます。毎年楽しみにしてくれていたお寺に集まる皆様とは、縁が途絶え気味です。時々、個人的に修理品を送ってきたり、電話で注文くださったりする方もいますが、それはほんの一部のかたです。何か、お役に立てる方法は考えたいと思っています。

オンラインショップの活用方法

長岡念珠店のオンラインショップをご覧になったことはありますか?これは、従来のカタログやチラシの現代版と言えるでしょう。

高齢のお客様にも使いやすいよう、操作がシンプルで直感的なデザインに努めています。出張販売が難しくなっている実情を考慮して、お寺を軸に良い念珠を広めてくださるのでしたら、オンラインショップを檀家さんと一緒に見てもらうというのは一番理想的ではあります。

また、お寺の記念品の注文なども、カタログのような感覚でオンラインショップを参考にしていただけましたら、おおよその見積もりが進むでしょう。

オンラインショップイメージ
ほとんどの念珠は写真の現物一点ものです。 カタログ代わりにご利用ください。記念品も承ります。

見た目は一般的なオンラインショップと大差ありませんが、工場で大量生産している業者と比べて、中身は大きく違います。うちの場合は、ほとんどの商品が一点物であることが多いです。素材も形も定番で、多くの人が使える略式の念珠は、同じものを複数、作りおくこともあります。また、同じ素材であっても、天然石の表情によって大きく印象が変わってしまうような場合は、同じ石の別バージョンとして写真を撮り直しています。

商品の写真は自社で撮影しており、プロ並みのクオリティを実現するために日々努力しています。プロに頼むと、けっこうな費用がかかりますので、念珠の単価を考えたらこまめに差し替えることはできません。そこで、自分でプロ並みの撮影をすることで、それを実現しています。実際のところ年々質は向上し、今や同業者のサイトをチェックしてみても、業界トップクラスの写真が撮れていると思います。

オンラインショップを運営するためには、複雑なシステムの構築が必要ですが、私たちは使いやすさと効率を常に重視しています。ウェブサイトのプログラミング知識も必要ですが、それは出来合いのサービスを使うことである程度解決することもできます。問題は業務そのもののシステム構築です。それぞれの価格を合計するだけなら簡単ですが、桐箱に入れて欲しい場合、紙化粧箱の場合、金額により送料が無料になる場合、どの商品が何個の注文になるかによって発送方法が変わる場合……どのように組み合わせても矛盾なく計算されるように、考えなくてはいけません。

このようにとても手間がかかっているというのは、お客さん側からみたら分からない部分ではありますが、数を捌くことよりも、サービスの質を落とさないことを今後も優先したいとは思っています。

肝心の商品ですが、売り切れになっているものが多いです。修理や特注品が多く、なかなか手が回っていないという現実はありますが、この辺りは、日々の業務バランスを改善することに務めております。

念珠の箱
シンプルでお洒落なデザインにこだわった オリジナルの化粧箱。見た目だけでなく、 輸送コストを最小限にする工夫がされています。

当ショップでは、ほとんどの商品を即時出荷可能な状態でご提供しております。一品物が多いため、在庫は限られていますが、注文に応じて迅速に製作する体制を整えています。ただし、材料ではストックしてあり、すぐに作ることができるものもあります。記念品などのご注文の際も、オンラインショップをカタログ的に活用していただければ、話がスムーズに進むと思います。

ブレスの箱

贈答用や記念品として、またカジュアルなプレゼントとしてもご利用しやすいように、包装、掛け紙、桐箱の指定もできるようにしてあります。それでも、オンラインショップ上の工夫だけでは全てのパターンに対応しきれませんので、メールや備考欄で個別に相談していただければ、最善を尽くした方法をご提案します。

「ネットで注文する」という行為に不安や抵抗があるという方も、まだまだ多いかと思います。現状では、対面でもネットでも同価格で販売していますが。実際、直接お会いして販売する場合は多少高くしないと商売としては成り立ちません。この問題に関しては時間が解決してくれると思いますが、まずは皆様にもオンラインショップに慣れていただくということも、少しずつ進めたいと思います。

お問い合わせについて

記念品のご注文、イベントの開催など、事前に連絡調整が必要なことも多いと思います。メール以外にも、連絡用の公式LINE他、zoomミーティングの用意もありますので、遠方でもお気軽にお問合せください。

詳しくはこちら

物流の最新情報

念珠の製作には、世界各地から厳選された天然石や木材が用いられます。これらの材料は、その美しさや希少性で価値が決まります。かつてはブラジルやアジア産の素材が主流でしたが、最近ではアフリカ産の珍しい素材も増え、多様な選択肢を提供しています。しかし、これらの素材は主に中国経由で輸入されるため、国際情勢の影響を大きく受けています。

特に珍しい石に対するお客様の関心は高く、「何か珍しい石はないか」という問い合わせが多く寄せられます。しかし、最近では、特にアフリカ産の素材の入荷が難しくなっており、これは産地の政治的な不安定さやコロナ禍の影響が大きいと考えられます。定番の素材、例えば水晶やトラメ石などは比較的安定して入荷していますが、一部の産地では紛争や政治的な問題により入荷が不可能になることもあります。

カラフルな女性用念珠

このような状況は、商社との取引においても影響を及ぼしています。発展途上国での買い付けは現金払いが基本であり、信頼できる取引関係の構築が重要です。しかし、コロナ禍においては、商社のスタッフが自由に国を行き来できないため、仕入れが困難になることが多々ありました。さらに、一部の素材はコロナ禍により長期間にわたって品薄状態が続き、今後入荷しない可能性も出てきています。

国内の物流状況もこの数年で大きく変化しました。日本郵便やクロネコヤマト、佐川急便などの主要な運送会社は、短期間で料金を軒並み値上げし、配達時間も以前に比べて長くなっています。これは、運送業界の労働環境改善への社会的な要求が高まっていることと関連しています。これらの運送会社の対応は、我々のビジネスにおいても発送計画を慎重に立てる必要があり、お客様への影響も考慮する必要があります。

念珠業界全体の衰退は、これらの課題と密接に関連しています。レアな材料の取り扱いは商売上の効率を損ね、全体の売上の伸び悩みに拍車をかけています。また、一部の材料は流通しておらず、入手方法が限られているため、特注の念珠を作る際には大きな挑戦が伴います。

当店では、これらの変化に対応し、お客様に満足していただける商品を提供するために努力しています。例えば、特注の念珠では、通常のビーズの仕入れ方とは異なり、一粒ずつ手作業で加工し、顧客の要望に応じたカスタマイズを行っています。しかしこの方法は、材料の入手困難さやコストの面で以前よりも制約が多くなっています。

このように、材料の流通の変化を考慮しつつ、在庫は定番商品に絞り、それらを適正価格で提供することに注力しています。お客様が念珠を選ぶ楽しみを提供するために、私たちは日々新しい方法を模索しております。

価格改定(値上げ)について

「近頃は何でも値上がりしている」ということは、誰もが実感しているところだと思います。これは、今年kindleにて出版した『ビジネスノウハウよりも先に知りたかった三つの力』という電子書籍の中でも詳しく書きましたが、コストプッシュインフレ(材料や経費の上昇によるやむを得ない値上げ)が起きていること、そして、円の貨幣価値が相対的に下落していることを意味しています。

Amazonで、電子書籍も出版しています。 『ビジネスノウハウよりも先に知りたかった三つの力』

身の回りの物価を見渡してみれば、五年前と比べて軒並み三割から五割くらい上がっていないでしょうか。価格の優等生と言われてきた卵などは長年の反動が大きかったのか、短期間のうちに倍くらいになった印象です。小さな買い物なら我慢できるような気がしますが、100万円くらいでイメージしていたものが130万~150万円ないと買えないという話です。ここで、年収400万円だった人が600万円になっていれば問題無いのですが、一部の大手企業や国家公務員を除き、多くの人は収入の額面は変わっていないのが実情だと思います。むしろ増税が続き、手取りがジリジリ減っているということはあるかもしれません。

そのような社会情勢は、念珠や仏具の業界も例外ではありません。商品価格はコストプッシュにより上げざるを得ない状況ですし、自分たちの生活を数年前と同じ水準にキープするだけでも大幅な値上げは避けられません。

たとえば、先日、水晶の単価を確認したら、なんと数年前の約二倍になっていました。各地の人件費、運送コストの高騰。また円が弱くなったことで為替の影響も大きいです。

ものの価格は、需要と供給の関係で自動調整されます。このことを経済学者のアダム・スミスは、「神の見えざる手」と表現しています。とはいえ私たちのような業者は、ある程度、売値をコントロールすることができます。もちろん高すぎれば売れないし、安すぎたら自滅するので、仏具販売をしていても利益を仏様に救ってもらえるわけではありません。結局「神の見えざる手」には逆らえないのですが……。

つまり、この状況を良く見るとするなら、これだけ条件が悪くなっても念珠を欲しい人がいるから値段が上がっているということも言えます。

お寺の懐事情を想像しますに、世間の物価が三割上がったからといって、お布施も三割あげましょうということはできません。したがって、経済状況が悪化すると、収入の伸びが物価の上昇に追いつかず、寺院運営においてもさらに厳しくなる可能性が高いです。

なんでも値上げ

その上で、念珠の値上げ。心苦しいことに変わり有りませんが、このような状況下で、過度な気遣いはお互いにとって不要です。おそらくほとんどの業者は、「企業努力を続けてきましたが……」なんて前置きをして、値上げをお詫びするような文章を出していると思います。私は「お詫び」に違和感を覚えます。

もう、上げざるをえないし、不当にボッタクリをしているわけではありません。むしろ利益を削りながら値上げを最小限に留めているというのが、多くの業者だと思います。どちらが悪いことでもないのです。値上げに対する謝罪や反対の声はありますが、どちらもなしにするべきだと思います。

コストプッシュによる値上げですから、「企業努力」と言われていることの内情は人件費を叩くしかありません。最低時給以下にはできませんから、人数を減らすか、単位時間あたりの一人の負担を大きくするかということになります。従業員の収入が減れば、念珠を買う人も減り、お寺へのお布施も出せなくなるという悪循環が完成です。

贈答用の念珠に関しても、同じ一万円というご要望でも、かつてと同じ商品を提供するのが難しい現状です。結果的には、今までよりも安い材料を使いながらも、手を抜かない念珠をご提案することになります。

当店だけでなく、今後は業界全体で、加速度的に商売が難しくなることが予想されます。私が開業時から守っているのは、「安さ」ではなく「適正価格」です。この時代にあった適正価格を示しながらも、価格以上の満足をしていただけるように、次世代に向けた付加価値を考えています。次の章では、念珠屋としての未来に何が待ち受けているのか、さらに具体的な施策について深掘りします。

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