「略式の数珠で大丈夫ですか?」
当店でいちばん多くいただく質問の一つです。答えはほとんどの場合、「はい、大丈夫です」。ただ、一つだけ例外があります。日蓮宗です。
略式数珠とは
数珠は本来、宗派ごとに珠の数や並び方、房の形が決まっています。その違いを気にせず、どの宗派の仏事にも持っていけるように簡略化したものが、略式数珠です。
お葬式や法事、お墓参りなど、宗派のちがう人が集まる場面でも、略式数珠なら多くの宗派で問題なく使えます。在家の方の数珠について、細かな形式を厳しく求めない宗派が多いので、「宗派がわからないけれど、すぐに必要になった」というときにも、一本あれば安心です。
コンパクトで持ち運びやすく、素材やデザインの選択肢も豊富です。自分らしい一本を選びたい、という若い世代の方にも、略式数珠は手に取りやすいものだと思います。(ただ、葬儀や正式な法要では、あまり派手な色やデザインは避けたほうが安心です。)
日蓮宗だけは、本式をすすめられる
ところが、日蓮宗は事情がちがいます。
当店では念のため、日蓮宗宗務院に直接問い合わせたことがあります。そのときの回答は、次のようなものでした。
僧侶のみならず在家檀家の方々に対しても、本式数珠の使用を推奨している。
日蓮宗の一般寺院のご住職にも何人かお話をうかがいましたが、皆さん口を揃えて「それ以外ない」とおっしゃいます。在家の方にまで、ここまではっきり本式をすすめる宗派は、ほかにあまりありません。
なぜ、本式なのか
理由として私が受けとめているのは、日蓮宗の念珠の形そのものに、法華経の世界が組み込まれている、ということです。
日蓮宗の本式の念珠には、左右の端に大きな親珠が二つあり、それぞれが釈迦如来と多宝如来をあらわすとされます。小さな四天珠は四菩薩や四天王をあらわし、房は片方に二つ、もう片方に三つ。形を省いた略式では、そうした意味がそっくり抜け落ちてしまいます。(珠と房の意味、持ち方は「日蓮宗の念珠——二つの房と三つの房、その形の意味と持ち方」にくわしくまとめました。)
急なお葬式で、本式が用意できないときは
とはいえ、「急な葬儀で、日蓮宗の本式を用意する時間がない」ということもあるでしょう。その場合に略式で参列することを、責める方はまずいないと思います。
ただ、日蓮宗の檀家さんとして、これから長く使う一本を選ぶのであれば、ぜひ本式を手にしていただきたいと思います。
他の宗派の方が、日蓮宗の葬儀に参列するときは
よくいただくもう一つの質問が、「自分は日蓮宗ではないけれど、日蓮宗の葬儀や法事に参列する。数珠はどうしたらいいか」というものです。
これは、安心してください。数珠は、自分自身の信仰に合わせて持つのが基本です。日蓮宗以外の方であれば、ご自身の宗派の数珠や、ふだん使っている略式数珠で参列して、失礼にはあたりません。わざわざ日蓮宗の本式を用意する必要はありません。
大切なのは、その場への敬意です。形が整っていることより、手を合わせる気持ちのほうが、ずっとよく伝わります。
余談——日蓮宗では「数珠」と呼ぶことが多い
本題から少しそれますが、日蓮宗では「念珠」より「数珠」と呼ぶことのほうが多いようです。呼び名のちがいについては「「数珠」と「念珠」は何がちがうのか」に書きました。
参考
- 日蓮宗ポータルサイト「仏教・仏事のQ&A 数珠」https://www.nichiren.or.jp/qa/juzu/
- 日蓮宗宗務院への問い合わせ(当店による確認)

