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イスラームの数珠「スブハ」——99の美名を数える珠と、指で数えた預言者
世界の祈りの数珠

イスラームの数珠「スブハ」——99の美名を数える珠と、指で数えた預言者

2026年10月30日

トルコやエジプト、中東の国々を旅すると、手の中で珠をつまぐっている人をよく見かけるそうです。イスラームの数珠です。

仏教の数珠と同じように、珠をつないで祈りの数を数える道具。けれども、その数え方も、たどってきた歴史も、仏教とはずいぶんちがいます。

名前——「讃えること」がそのまま道具の名に

イスラームの数珠には、いくつかの呼び名があります。

  • スブハ(アラビア語)
  • ミスバハ(アラビア語)
  • タスビーフ(アラビア語):「神を讃えること」という意味の言葉が、そのまま道具の名前になったもの
  • テスピフ(トルコ語)

八世紀に亡くなったアラビア語の最初期の辞書学者ハリール・イブン・アフマドは、スブハを「讃美のときに数える珠」と定義しています。

99の珠と、33の区切り

いちばんよく見られるのは、99の珠の数珠です。イスラームでは、神には99の美しい名前があるとされ、その名を一つずつ唱えながら珠を送っていきます。

99の珠は、33ずつ三つに区切られていることが多いようです。これは、「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」を34回、「アルハムドゥリッラー(神に讃えあれ)」を33回、「スブハーナッラー(神に栄光あれ)」を33回、合わせて100回唱える「ファーティマの讃美」という唱え方と対応していると説明されます。

預言者ムハンマドの娘ファーティマが、家事の重さに疲れて召使いを願ったとき、預言者が「それよりよいものを教えよう」と授けたのが、この唱え方だと伝えられています。

トルコの数珠の部位

トルコ宗務財団の『イスラーム百科事典』によると、トルコの数珠テスピフには、仏教の数珠と同じように部位ごとの名前があります。

  • イマーメ:頭にある大きな珠。仏教の数珠でいえば親玉にあたる
  • プル、ニシャーネ:区切りの珠
  • ピュスキュル:房

素材も、瑪瑙、ラピスラズリ、トルコ石、琥珀、黒檀、白檀、骨、角など、仏教の数珠とよく似ています。十九世紀の終わりには、イスタンブルのグランドバザールの周りに、三百を超える数珠の工房があったそうです。

預言者は、指で数えた

ここからが、仏教の数珠と大きくちがうところです。

預言者ムハンマド自身は、数珠を使っていなかったと考えられています。十五〜十六世紀の学者スユーティーが集めた伝承には、預言者が指を折って讃美を数えたという話や、「指の節で数えなさい。指は審判の日に問われ、語らされるのだから」という言葉が伝えられています。一方で、妻のサフィーヤがなつめやしの種で讃美を数えていた、という話もあります。

数珠が広く使われるようになったのは、九世紀ごろからだと考えられています。そして、その使用をめぐっては、長く議論がありました。多くの人々は敬虔のしるしとして受け入れてきましたが、十八世紀のワッハーブ派のように、預言者の時代になかった「新奇なもの(ビドア)」として退ける立場もあります。

どこから来たのか

イスラームの数珠がどこから来たのかについては、いくつかの説があります。インドの仏教から伝わったという説、キリスト教を通じて取り入れられたという説、そして、どこからも伝わらず独自に生まれたという説です。

どの説にも決め手となる資料はなく、はっきりしたことはわかっていません。「九世紀ごろに広まった」という時期については、資料の多くが一致しています。

仏教の数珠と並べてみると

仏教の数珠(日本) イスラームの数珠
基本の珠の数 108 99(33×3)
数の意味 煩悩の数など 神の99の美名
大きな珠 親玉 イマーメ
唱えるもの 念仏・題目・真言 神の名・讃美の言葉

数も意味もちがうのに、大きな珠で始まり、区切りの珠があり、房が付く。祈りの数を数える道具は、宗教がちがっても、どこか似た形に落ち着いていくようです。(親玉については「親玉(母珠)とは」、世界の数珠の歴史については「ロザリオの語源は「バラ園」」もどうぞ。)

江別の街で見かけた数珠

正直に書いておくと、私自身はイスラームの数珠を、まだ実際に手に取ってみたことがありません。

じつは、私の住む北海道江別市でも、ムスリムの外国人の方が増えてきています。一度だけ、街なかで数珠を繰っている方を見かけたことがあります。おそらくパキスタンの方だったと思います。この記事で書いたように、イスラームの中でも、派によって数珠を使ったり使わなかったりするのでしょう。

今のところ、実際にお近づきになって数珠を見せていただく機会には恵まれていません。いつかそんな機会があれば、念珠職人の目で、そのつくりをじっくり見せてもらいたいと思っています。


参考